Cold Brew (水出し) 2.0

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アイスコーヒー 2.0を書いたのが 2020 年の夏なので、そこから 2 年も経ってしまったなんて驚きだ。

今回も懲りずに「2.0」シリーズを書いていくんだけど、なんで Cold Brew なのかというと、ここ数ヶ月通っている Definitive. が出す Cold Brew によって自分の中の常識が変わってしまったから。

これまで豆のポテンシャルを最大限味わいたいならフィルター(ホットのドリップ)を選ぶことが多かった。 だけど Definitive.の Cold Brew はフィルターで淹れたコーヒーと同じくらい複雑なアロマと様々なフレーバー、アフターの複雑さ、温度変化によるフレーバーの変遷も楽しむことができる。

ということで、お店の味を完全再現!とまではいかないものの、豆に応じて好みの Cold Brew を作れるようになってきたので、レシピとしてまとめておこうと思う。

目指している味わいの方向性

最初にこのレシピでどういう方向を目指しているのか書いておく。

  • フィルターで淹れたときと同じくらい多様なフレーバーが取れる
  • 温度と濃度の変化によってフレーバーの変遷を楽しめる
  • アロマと味わいのバランスが取れている(複雑さが生まれる)
  • 豆の状態 or ドライでの香りが液体でもアロマとして出ている
  • アフターに渋みを感じない (キレイに抜けていく)
  • 質感にザラつきがない

レシピ

  • 豆 15.5g(フィルター用と同じか少し細かい粒度で挽く)
  • 冷蔵庫で冷やした水 235g (レシオは 1:15.5)
  1. 挽いた豆を茶こしで揺すって 0.3g のパウダー(微粉)を取り除く
  2. お茶パックに粉を入れてボトルに詰める
  3. パウダーを取り除いた後の重量に対して 1:15.5 の水を入れる
  4. キャップを締めて冷蔵庫に入れておく
  5. 6 時間経ったらペーパーフィルターで濾す
  6. 氷を入れたグラスに注いで出来上がり

使用機材

ポイント

試行錯誤しながら作ったレシピなので、各ポイントについて軽く解説する。 仕上がりがイマイチなとき、どう調整するかのヒントにもなるはず。

茶こしでパウダー(微粉)を取り除く

小皿をスケールに載せて、挽いた豆を茶こしでふるって、落としたパウダーの量を確認しながら調整する。

パウダーが Cold Brew のフレーバーに与える影響はフィルター以上だった(浸漬式なのでそれはそう)。 最初はパウダーを取り除かずに作っていたが、Definitive.ではパウダー量を調整していると聞いて試したところ、 フレーバーのバランスとアフターが大幅に改善したため、レシピに組み込むことにした。

パウダーをどのくらい取り除くかは簡単には決まらないパラメータである。 が、どういうアプローチで調整していくかは参考になると思うので書いておく。

取り除くパウダー量の調整

初めて Cold Brew を試す豆ではまずは 2%取り除いてみる。15g の豆であれば 0.3g に相当する。 プロセスが Natural、Anaerobic Natural、Carbonic Maceration Natural、その他クセの強い特殊発酵系のときは2倍の 4%、15g 換算だと 0.6g を取り除く。

0.3g または 0.6g で試した結果、特定のフレーバーが支配的になって他のフレーバーが取りにくかったり、単純に味わいが強すぎたり、アフターに渋みがある場合には取り除くパウダー量をさらに増やす(もしくはグラインダーの挽き目を粗くする、またはレシオを高くする手もある)。

逆に間の抜けたような味わいになったり、フレーバーが単純になりすぎたり、 全体的に味が薄くなってしまった場合は取り除くパウダー量を減らす(もしくはグラインダーの挽き目を細かくする、またはレシオを低くする手もある)。

パウダーが全体のどれくらいを占めているのかは使っているグラインダーに強く依存する。 なので、2% (0.3g) というのも自分の環境での基準になるため、何度か試してちょうどよい基準を探してみてほしい。

スケールについて

取り除く分量がわずかなので、必然的に 0.1g の分解能のあるスケールが必要になる。

また、スケールによってはわずかな重量変化は自動的にオフセットしてしまうようなので、 スケールを2つ用意して小皿の重量をオフセットしておき、1つのスケールである程度ふるったら、 もう1つのスケールに載せてパウダーの重量をダブルチェックするようにした。

パウダーが小皿にたくさん落ちてるのに全然重量に反映されない現象は Acaia Lunar 2021 年モデルで発生した。 他のスケールでも似たような現象が起きる可能性はある。

ミネラルウォーターを使う

水道水では美味しく作れない、というわけではない。 豆に合った水の硬度と味わいがあるので、入手しやすい手頃なミネラルウォーターをいくつか試して自分の好みを探してみるのがおすすめ。

Definitive.の企画「Focus on Water」で 16 種類のミネラルウォーターを試して、 自分はセブンイレブンのミネラルウォーター(硬度: 70mg/L、採水地: みなかみ町)がベストだった。

他にもいくつか入手性のよい候補を上げておく。

  • 南アルプスの天然水 (硬度: 30mg/L)
  • ファミリーマート ミネラルウォーター (硬度: 30mg/L)
  • ローソン ミネラルウォーター (硬度: 59mg/L)

硬度は1つの指標となるが、硬度が同じだからといって当然同じ味ではない。 また、水として飲むときの好みとコーヒーを抽出したときの好みは一致しなかった。 自分がベストだと思ったセブンイレブンのミネラルウォーターは、実は過去に試そうとして購入したものの、 水だけの状態で味を確かめたら本当に苦手な味わいだったので、コーヒーの抽出には試してなかった。 この結果には自分もビックリだったので、とりあえず数種類試してみてほしい。

1:15.5 のレシオ

最初は 1:14 のレシオで試していたが、グラスに注いで氷が溶けてくるとちょうどよい感じになるケースが多かったので 1:15.5 にしている。

1:16 を試したこともあったけど、逆に最初がクライマックスで、氷が溶け始めるとすぐにウォータリーな味わいに変わってしまうので、 1:15〜1:15.5 あたりが今のところちょうどよいレシオになっている。

このレシオは豆によって変えるのではなく、個人の好みだと思っている。グラスに注いだ瞬間はわずかに濃度が高くても、氷が少しでも溶ければちょうどよい濃度になるあたりを狙うのであれば 1:15 くらい。最初からちょうどよいレンジを狙うなら 1:15.5。

ちなみに自分なりのレシピができたあとに Definitive.でお店のレシオを聞いたら全然違ったので、 1:15.5 というレシオも自分なりの基準を探すことをオススメする。

浸漬時間

レシピでは 6 時間としているが、これは 8 時間にしてもあまり変わらなかった。 おそらく最初の数時間で抽出されるため、後半どのくらい浸しておくかは重要ではないのかもしれない。

浸漬時間はまだまだ検証の余地がありそう。例えば 3 時間経過あたりから 1 時間ごとに味を見るとどうなるか、とか。

ペーパーフィルターで濾す

これはクリーンさと質感に大きく影響するのでペーパーフィルターを使うことを強くおすすめする。

水は冷蔵庫で冷やしておく

浸漬時間が長くないので、常温の水が冷蔵庫の温度になるのにも時間がかかってしまう。 これは比較検証ができていないので本当に必要な手間なのかはまだわかっていない。

フレーバーの変化

Cold Brew でフレーバーの変化を楽しめるのは一番興味深い部分。

要素としては2つあって、1つは氷が溶けることで濃度が変わり、取れるフレーバーも変わる。 もう1つは温度。フィルターと逆で低い温度から室温に近づいていく過程でフレーバーが変わる。

ただ、この2つの要素は氷を使う限り個別にコントロールできるわけではないので、氷の量を中心に考えていく。

まずは氷が多い場合。ここでは飲み切るまでに氷がすべて溶け切らず、まだ氷が残るくらいの分量を想定する。 このケースでは、温度については常に氷があるので冷えた状態が維持される。つまり注いだ直後を除けば温度変化は期待できない。 一方で濃度については飲み切るまでずっと氷が溶け続けるので濃度はどんどん低くなる。 ここは場合によっては濃度が低くなりすぎることもあるので良し悪しある。

まとめると、氷が多い場合は温度変化はほぼなく、純粋に濃度変化によるフレーバーの変遷を楽しめる。

次に氷が少ない場合。ここでは飲み切るまでの時間の半分くらいで氷が溶け切るくらいの量を想定する。 このケースでは、温度は氷が溶け切るまでは一定で、溶け切ったら室温に向けて上昇する。 一般的に体温に近づくと味を取りやすくなるので、フレーバーの変化が楽しめる。 また、濃度についても氷が溶け切るまで濃度が下がるのでその間の変化を楽しめて、 氷の量が少ないので飲み切るまで溶け続けるわけでもないのでほどよい感じがある。

まとめると、氷が少ない場合は温度変化も濃度変化もあるのでフレーバーの変化を最大限楽しめる。

ただ、単純に氷が少ない方がいいのかというとそういうわけではなく、 冷えたまま飲み切ってしまう方が美味しい豆もあるし、そうでないものもある。 どちらも試してみると楽しい。

Blooming の効果について

Blooming (最初に少量のお湯で蒸らすこと) の有無で味わいを比較した結果、Blooming をすると特定のフレーバーが増強されることがわかった。それ故、Blooming は常に取り入れるべきテクニックというより、明確に課題があるときに使うテクニックと言える。

実際に検証した豆として ONA 焙煎のPanama Iris Estate Lot Enigma CM Natural Ocal を取り上げる。 この豆で Blooming をするとラズベリーのようなフレーバーが強化された。 一方で Geisha 由来の繊細な他のフレーバーがマスクされて複雑さは失われてバランスも崩れるので、今回のケースではマイナスに働く。

しかし、何らかネガティブな要素のある豆を使う場合、その要素をマスクするために Blooming するのはありえると思う。 もしくはバランスを失わない範囲でフレーバーを強化するなども有効と言える。

まとめ

「レシピできました!!!」とか言いながら、調整すべきパラメータが多すぎて全然レシピになってない・・・。 ただ、それも新たな発見で、豆によってあまりにも出来上がりが異なるし、本当に満足する味わいにするには何度も微調整しないといけないこともわかった。

あといい豆で作った Cold Brew はワイングラスで飲んでみてほしい。 普通のグラスだとアロマを楽しめない。 これまで Cold Brew でアロマなんて全然気にしてなかったのでこれも大きな発見。

というわけで真夏は通り越した感じはあるけど、ぜひ Cold Brew の奥深い世界に飛び込んでみてください。